69人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は刑事の問いには答えなかった。
もう結子は居ないし、説明しても理解できる訳もないだろうし、それより何より上手く説明できる自信が無い。
それにしても、僕に結子の父親を殺した以前の記憶なんて無い筈なのに、なんであの2人の事は僅かにでも覚えていたのだろう? 結子の記憶の一部が、少しだけ僕の中に残っていたのだろうか? それとも、見舞いに来た時に意識の無い僕に、何か彼らが話たのだろうか? その辺は、今となっては知る由も無いな。あの死神の子は、主人格の事は分かると言っていたから、やはり結子の記憶が僕に僅かに紛れていたのかも知れない。
「吉田もお前か? どうして殺した」
「吉田の上司の間宮と、結子が最初に暮らしていたあの男も、宗教キチガイの頭のおかしい奴だったから僕が殺したんだ」
ーーもうこの時には、僕は大まかな今までの記憶を思い出していた。
「貸しコンテナの、切断された腐乱死体が間宮か?」
「そうだよ」
「……。」
見た目からは信じられない淡々とした殺人の告白に、若い刑事は思わず怯む。
だが、僕はお構いなしに話を続けた。
「間宮が居なくなった結子を、暫くは吉田が面倒を見てくれてたんだけど、途中から結子に恋愛感情を抱くようになってね。ある日、結子を襲ったから僕がボコッて、ーー見せてやったんだよ?」
「何をだ?」
「間宮がどうなったかをさ。あのコンテナに連れて行って、お前もこうなるか? ってさ。バラバラの間宮を見せてやったのさ。まあでも、ほら、僕らこんなだろ? だから、あの時はまだ吉田は殺さずにしばらく利用しようと思ったんだ。いずれは殺す気だったけどね。その後も、あいつは間抜けな奴だったから、脅して結子の身の回りの世話をさせてたよ。でも、あいつは裏切って警察に通報したんだ」
僕は面倒臭かったし、半分ヤケクソだったから、多重人格の事を説明せずに刑事にそのままを喋った。
最初のコメントを投稿しよう!