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「それで、吉田を殺したのか?」
「ああ……」
ーーと返事し掛けて、僕は何かが頭に引っ掛かり言葉を止めた。
僕には、現実で吉田を殺した時の記憶が無かったのだ。
確かに吉田が密かに警察に相談している事は分かっていたが、どうやって殺したか覚えていない。そろそろ殺すか、とは思っていたがーー。
最後にした一番新しい殺人だから、まだ記憶が戻って居らず、思い出せていないだけなのか? それとも、無我夢中で殺したから覚えてないのか? そんな事があるか? 今までの殺人は覚えているのにーー。
吉田が殺されてから、結子が自殺するまでの、間に何が起きたのか僕の記憶には無い。
父はナイフ、母は絞殺後に放火しトドメに撲殺、叔父達は車のブレーキに仕掛けをし事故に見せかけみんな殺したんだ。みんなハッキリ、覚えている。
間宮は刺殺だし、ーーなんで吉田は覚えてないんだ?
まさかーー!?
と、一瞬ある可能性が僕の頭に浮かぶ。
だが、そんな事はある筈がないと無いと、直ぐに打ち消す。
まさか、結子がそんな事をする筈はない。
それに、もし結子なら、殺人を犯した結子も地獄行きの筈だ。
そんなわけはない。たぶん、僕がやったのだろう。
結子が自殺した所為で、きっと記憶が混乱しているんだろう。
元々、吉田は殺すつもりだったし。
「たぶん、僕が吉田を殺したんだと思う」
僕はそう納得し、刑事に答えた。
「それで自暴自棄になって、吉田の薬を飲み自殺したのか?」
刑事は全く多重人格の事には、気付いていない。
「僕はしてない(自殺は)。優しい結子には、あんな生活はもう絶えられなかったんだよ。ずっと終わりにしたがっていたのさ」
刑事はその後も色々訊いていたが、僕はもう何も答えなかった。
また彼らの声は、僕の心から遠くに行ってしまった。
ーー僕は思う。
このまま、ただの人殺しとして終わるのか。
このまま終わるのは嫌だな、と思った。
でもなんだか、不思議と気が抜けたようなサッパリとした気持ちもあった。
そういえば、この2人の刑事の顔は、あの旅館の風呂場で見た刑事の顔だ。
あれは、本物の刑事だったんだな。
そう言えば、この医師の顔はあの占い師の老婆にそっくりじゃないか。
そして看護婦は、その助手の女にそっくりだ。
今さら、ふとそんな事を思い出した。
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