【最終章】

7/13
前へ
/117ページ
次へ
「それで、吉田を殺したのか?」 「ああ……」 ーーと返事し掛けて、僕は何かが頭に引っ掛かり言葉を止めた。 僕には、現実で吉田を殺した時の記憶が無かったのだ。 確かに吉田が密かに警察に相談している事は分かっていたが、どうやって殺したか覚えていない。そろそろ殺すか、とは思っていたがーー。 最後にした一番新しい殺人だから、まだ記憶が戻って居らず、思い出せていないだけなのか? それとも、無我夢中で殺したから覚えてないのか? そんな事があるか? 今までの殺人は覚えているのにーー。 吉田が殺されてから、結子が自殺するまでの、間に何が起きたのか僕の記憶には無い。 父はナイフ、母は絞殺後に放火しトドメに撲殺、叔父達は車のブレーキに仕掛けをし事故に見せかけみんな殺したんだ。みんなハッキリ、覚えている。 間宮は刺殺だし、ーーなんで吉田は覚えてないんだ?  まさかーー!?  と、一瞬ある可能性が僕の頭に浮かぶ。 だが、そんな事はある筈がないと無いと、直ぐに打ち消す。 まさか、結子がそんな事をする筈はない。 それに、もし結子なら、殺人を犯した結子も地獄行きの筈だ。 そんなわけはない。たぶん、僕がやったのだろう。 結子が自殺した所為で、きっと記憶が混乱しているんだろう。 元々、吉田は殺すつもりだったし。 「たぶん、僕が吉田を殺したんだと思う」 僕はそう納得し、刑事に答えた。 「それで自暴自棄になって、吉田の薬を飲み自殺したのか?」 刑事は全く多重人格の事には、気付いていない。 「僕はしてない(自殺は)。優しい結子には、あんな生活はもう絶えられなかったんだよ。ずっと終わりにしたがっていたのさ」 刑事はその後も色々訊いていたが、僕はもう何も答えなかった。 また彼らの声は、僕の心から遠くに行ってしまった。 ーー僕は思う。 このまま、ただの人殺しとして終わるのか。 このまま終わるのは嫌だな、と思った。 でもなんだか、不思議と気が抜けたようなサッパリとした気持ちもあった。 そういえば、この2人の刑事の顔は、あの旅館の風呂場で見た刑事の顔だ。 あれは、本物の刑事だったんだな。 そう言えば、この医師の顔はあの占い師の老婆にそっくりじゃないか。 そして看護婦は、その助手の女にそっくりだ。 今さら、ふとそんな事を思い出した。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加