第1章

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地平線の彼方は真っ赤な夕日に染まり、大山箱根連山からは、夕暮れの富士山が金色に輝き、大島が浮き絵のように浮び、陽春の潮風が快い夕暮れだった。 「いよいよ、今日でお別れですね」妙子の目に暖かいものがにじんだ。 「二年間無事に何事も無く、仕事を終わらせることが出来たのは貴女のお陰です。 楽しい交際をして頂き本当にありがとうございました。これは御礼の記念に思い出として使って下さい」 その箱を開けて見ると、黄色い花びらを彫った象牙のネックレスだった。「素敵なネックレスありがとう。一生大切にするわ」 「僕も貴女のことは一生忘れませんよ。年賀状だけは必ず出しますからね」「生きている限り約束ですよ」最後に思いきって聞いてみた。 「隆さん。貴方は将来成功なさるでしょう。もしも、私が銀座辺りでホームレスになっていたら、その時どうする?」ビックリした隆は「好きだった人のそんな姿を見たら恐らく、声も賭けずに通り過ぎるだろう・・」歌舞島は宵闇に包まれ別れの時間は刻々と迫っていた。 漆黒のビロ―ドの上にばら撒かれた宝石のような美しい星を見上げながら、いつもとは違う低音での隆の声は震えていた。さよならと、さよならと・・涙で星空が見えなくなった。隆も時々手の甲で頬の辺りを拭いていた。二人は唄を途中のまま無言で同時に時計の針に目をやった。 「お元気でね。さようなら」去り行く隆の後姿を、城ヶ島灯台の十二万燭光の光がキラッ、キラッと後を追うように照らしていた。この切ない別れは、深く逃れようもない宿命として解っていた。
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