第1章

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美しく燃えた三崎の恋は悲しい失恋となったが、幸い天職ともいわれる大好きなガイド業に情熱を燃やしていた。豪農地帯の三戸や毘沙門地区からご指名が殺到し、自衛隊、遠洋漁業の船員達からは、ラブレターや真剣な交際申し込みがあり、寮の下にある発着所前の労働組合売店内で、何時間も仕事帰りを待ち伏せするお客さん。今で言うストーカーにも度々遇っていた。ある日数通の手紙に混じった見覚えある文字の封筒を発見。その手紙は懐かしい隆からだった。慌しく封を切ると、「あんな事を言ってお別れしていながら、貴女への思慕に苦しみ一人寂しい傷心の旅路、今東北に来ています」その内容はやっと忘れようとしていた胸が痛み手紙を破り捨てる事が出来ずに、後日上大岡の実家に帰った時、コッソリ箪笥の引き出し奥深くしまいこんだ。三崎伝統の賑やかな夏祭りが終わり七月下旬の暑い夜だった。寮に帰ると、親友の山ちゃんが飛び出して来た。「木村さん!さっき警察の人から電話があったわよ」 数年前、三浦の市会議員選挙があり、京急組合労組から大先輩が立候補され、突然唯一若輩の妙子にウグイス嬢指名の会社命令があった。 高一の秋、県立高校の弁論大会が湘南高校で開催、その時の優勝者として神奈川県代表全国大会出場の経験があったこと等会社の幹部が知るよしも無い。水に放された魚の如く妙子の本懐とする処であり、熱弁とその美声は巷の人気を浴び、当時の日本はまだ女性弁士が珍しい時代だった。  
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