第1章

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地元警察の目にも止り、三崎警察署長の依頼を受けた京急三崎営業所は、交通安全期間の広報協力の一端として春夏二回、ウグイス嬢の警察署派遣となった。慣例になった妙子は華々しく三崎広報にも掲載されて、安全協会の人と、若く凛々しい警察署員が交代で運転勤務。車はジープでウグイス嬢の美声は市内全域を流れて日頃は同じ町に住みながら、今日は東明日は西と飛び回るガイド業の身、年二回の地元三崎警察署勤務が楽しみだった。当時は署員五十名程の警察署には婦人警官はまだ配属されず、凛々しい男の城だった。毎回の出勤に全署員の親切な歓迎と応対を受け、警察大ファンになり、春の交通安全運動期間のある日の事だった。三年程前に相模原署から転勤して来た顔馴染み署員とは何度かご一緒したが、その日は広報車で終日同席した。隆とは正反対の大人しく素朴な人柄、茨城県潮来出身という彼の存在を意識はしたが、ガイド業以外の妙子に又京急から会社命令。その要請は三浦市制執行市長選挙一騎打ち、厳寒の全期間を紅一点軽トラックの荷台に立って市内遊説を担当。苦戦の中二百六十票の差での勝利、候補者はよそ者故に「木村さあーん。ガイドさあーん」畑からの声援に初代市長は感激の涙を浮かべ「君のお陰です」と同時に京急三浦の快挙ともなって三浦の秘蔵っ子といわれた。 「エッ私に」「そう!早く電話してあげて」「名前は?」「何か難しい名前で」そこで警察署員の若き五、六人の名前を挙げた。「そうよ、その変わった名前の人」電話口の署員は名乗ると快く呼び出してくれた。 「木村さん、もうお休みですか?」「いいえ、まだ門限までには二時間ちょっとありますが」 「それじゃちょっと下迄降りて来ませんか」高台にある東岡寮から、指定場所はあの思い出のスワンだった。顔馴染みの彼は後輩署員同伴だった。 「先日仕事で女子寮へ伺ったのですが、木村さんの下駄箱見ましたよ」私服の彼は顔を赤らめ語りだした。お互い顔馴染みの二人とは話しに花が咲き、改まった彼は「木村さん今付き合ってる人居るのですか?」「エッ!どうして?」ドキンとした。
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