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俺は自衛隊が匍匐前進するように彼女の扉の方へ逃げようとした。だが華奢な彼氏につかまれて動けない。一体、どうしようというのだ。
俺を囮に使おうというのか。
「ストーカーっていうのはこいつのこと?」
華奢な彼氏は後ろにいる坊主の彼を指差していった。
俺は彼の言葉を聞いて全てを理解した。彼の訛りが、坊主の彼氏と一緒なのだ。俺と兄貴の声が一緒のように。
「あ、ああ……」
俺は狂いそうになった。すでに狂っているのかもしれないが、さらに俺の頭のねじがぼとぼとと、液体のように崩れ落ちていった。
この二人は……グルだ。
俺は確信した。観察していたのは俺ではなく、彼らだったのだ。
「ごめんなさい……許して……許して下さい……」
俺は懇願するように泣きながら彼らを見た。だが彼らは俺が見えていないように微笑みあっている。
俺の体は透明人間ではない、と思った。きちんと形がある。
形がないのは彼だった。えたいの知れない黒い影を彼らは持っているのだ。
俺の心と体は彼らに吸い込まれていった。彼らの底の知れない引力には抗うことはできないと諦めた時、俺は初めて自分が生きていることを実感した。
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