第1章

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 俺は自衛隊が匍匐前進するように彼女の扉の方へ逃げようとした。だが華奢な彼氏につかまれて動けない。一体、どうしようというのだ。  俺を囮に使おうというのか。 「ストーカーっていうのはこいつのこと?」  華奢な彼氏は後ろにいる坊主の彼を指差していった。  俺は彼の言葉を聞いて全てを理解した。彼の訛りが、坊主の彼氏と一緒なのだ。俺と兄貴の声が一緒のように。 「あ、ああ……」  俺は狂いそうになった。すでに狂っているのかもしれないが、さらに俺の頭のねじがぼとぼとと、液体のように崩れ落ちていった。  この二人は……グルだ。  俺は確信した。観察していたのは俺ではなく、彼らだったのだ。 「ごめんなさい……許して……許して下さい……」  俺は懇願するように泣きながら彼らを見た。だが彼らは俺が見えていないように微笑みあっている。  俺の体は透明人間ではない、と思った。きちんと形がある。 形がないのは彼だった。えたいの知れない黒い影を彼らは持っているのだ。  俺の心と体は彼らに吸い込まれていった。彼らの底の知れない引力には抗うことはできないと諦めた時、俺は初めて自分が生きていることを実感した。
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