第1章

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 都会に引っ越してきてついた癖がある。  それは人間観察だ。俺は東京に来て人を観察する趣味がついた。溢れた人間が皆、誰にも関心を見せないからだ。それは高い人口密度の弊害が生んだものだろう。  俺の休みはスタバに入りブラックを頼んで文庫本を開くことだ。俺はその本の裏側にいる人間の固まりをそれぞれ観察する。皆、思い思いに何を話しているのかはわからないが、命には限りがあることを証明するように彼らは夢中で話をする。それはハムスターが車輪を回すようにエネルギーを消費する行動だ。  俺はそれを少し離れた視点から観察し想像する。俺にとって都会の人間はファンタジーの生き写しだ。誰しもに物語があるように、俺の物語で彼らはただの通行人に過ぎない。その通行人を眺めていると俺は自分が透明人間になっていくようで嬉し かった。自分には特別な力がある、そう感じてしまうのだ。  だからこそ俺は、こんな馬鹿な真似を始めて癖になったのかもしれない――。    俺は田舎から東京の大学に来て六畳のボロアパートを借りることにした。家具もなくクーラーまでない昭和のアパートだ。それでもここを借りたのは、隣の人物に目が眩んだからだ。
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