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「お前一週間前に池田と絶交したろう?」
「は?あぁ、まぁ…」
ヘルメースと名乗るそのおっさんは、俺の数々の疑問をすっ飛ばして話を先に進める。
「後悔してるだろう?」
「後悔?し、してない、あんなヤツ最低だ!」
「本当にそう思うか?」
「あぁ、思うね。大体アイツは…」
俺を裏切ったんだ…親友だと思ってたのに。
「お前は真実を知りたくないか?池田の真実を」
「池田の真実?…べ、別に知りたくない、真実なんか…」
「知りたいだろう?ん?ん?」
「いや、だから」
何だその自信満々な目は。
「そうか、では正直者のお前に褒美をやろう。
明日池田に会いに行け。そこで真実を確かめろ。後悔したくなければ池田に会いに行くのだ。」
「い、行くもんか!池田とは縁を切ったんだ!行かないぞ、絶対に…」
「迷える旅人よ。さぁ、お行きなさい…」
「…はぁ?いや、ちょっ…えぇっ?」
おっさんが突然光りだす。
それはまるで本物の神様のごとく、神々しい光りに包まれながら噴水に消えていく。
足元から吸い込まれるように、水の中に沈んでいくのだ。
って待て。『お行きなさい』じゃねえよ。言いたい事だけ言いやがって。って言うかその噴水はそんなに深いのか?本当にそこへ帰るのか?あんた本当に何者だ?怖いな。今更怖くなってきた…
「いいか?必ず行くんだぞ?行かないと…」
「…え?行かないと?」
「行かないと……あれだぞ?」
「あれって?あれってなんだよ!?」
「…あれだぞ、ほら、ブクブク…」
「お、おい、おっさ…」
「ブクブク……ほな…ブクブク…さいなら…ブクブクブク…」
「『さいなら』じゃねぇよ!行かないとどうなるんだよ?てかこのスーツのクリーニング代っ…」
俺の最後の叫びも虚しく、意味深な言葉を残したまま、とうとうおっさんは噴水の底へ消えて行った。
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