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二〇三〇年、八月。
「OPEN! THEDOOR!」、「OPEN! THEDOOR!」という声が、米国サウスダコタ州の感染症研究施設で轟いた。
それも、あちこちの部屋で――数十人の人間が「OPEN! THEDOOR!」と、叫び、収拾がつかない事態へと発展していった。
米国政府の判断で、施設内は生物災害の疑いで閉鎖されており、勤務していた研究スタッフごと隔離したのだから無理もない。施設内はパニックになっており、冷静さを保っているのは四人の研究員だけだった。
マーサ・ヘンドリックスは白衣から出した新しいメスを持ち、ホリー・ベイマーに飛びついた。
ホリーはメスを握りしめたマーサの右手を両手で持って必死に抵抗をつづけた。
「きゃあー! やめて! やめて! やめてぇえ!」
もともと他者を虐待して楽しむ嗜好でもあったのか、マーサはホリーに「お願いだから動かないで、動くと余計なところまで削いでしまいそうだから、ほら、わたしって不器用でしょう? 作業に慣れてないのよ」と、楽しそうだ。
その時、もう一人、ホリーと仲がいい、リンダ・スペンサーがミーテングルームに顔を出した。
「大変です! チーフ! みんながロビーで集まって騒ぎだして! きゃあ! マーサ! え? どうしちゃったの? マーサ? 落ち着いて!」と、リンダは何かの理由で、ホリーとマーサが争っていると勘違いして、マーサを羽交い絞めにした。
マーサは身もだえして「うわああ! 邪魔すんな! 治療よ! 治療してるだけだから!」と、リンダから離れようとしたが、腕力に差があり、どうにもならない。おまけに左腕に怪我をしているのだ。
リンダはそんなマーサを一喝した。
「嘘つくな! どこにそんな治療があるのよ! このイカレ女!」
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