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「カケルさまー。朝ですよー。」
朝日が射し込む宿屋の一室。
窓の外から零れる小鳥の囀ずりが心地よい朝を演出している。
「カケルさまー?」
ベッドで未だ眠る青年を起こそうと、2人の少女が両脇から男の顔を覗き込んでいた。
透き通るような金髪を背中まで伸ばした少女と、肩まである白銀の髪を片側で結んだ少女のその姿は、日の光と相成って幻想的にすら映る。
先程から呼び掛けていた金髪少女が眠る男の肩を揺すってみるものの、目を覚ます気配は一向にないようだ。
「なかなか起きてくれないね。」
「駄目よマーリ。そんな起こし方じゃマスターは一生目を覚まさない。」
「一生は言い過ぎでは…」
「私が手本を見せる。」
マーリと呼ばれた金髪少女の言葉を受け流し、銀髪の少女がなおも寝ている青年に跨り咳払いを一つする。
「お兄ちゃん、起きてくれないと、リリス寂しいな?」
「……」
「早く起きないと、お兄ちゃんにチュー、しちゃうよ?」
「ダメーー!!」
猫撫で声で青年に覆いかぶさった少女の妖艶な仕草を見て慌ててマーリが割ってはいる。
「なによマーリ。私は手本を見せているだけ。」
「そ、そういう如何わしい起こし方はダメです!」
リリスと自身を名乗った銀髪少女がもとの淡泊な口調に戻り、遮られたことに不服を申し立てる。そうして二人の小競り合いが青年の上で始まったのだった。
――――――――
――動けない...。
青年が目を覚ましたのはそれから1時間後のこと。
気が付くと両腕は腕枕により拘束され、左右で少女達がスヤスヤと満足そうに眠っていたのだ。
うーむ。寝ている二人を起こすのは忍びないが...
「マーリ、ほら朝だぞ。」
「んー...」
「ほら、リリスも。」
「マスターのキスがないと起きられない呪いにかかっているのおやすみなさい。」
「しっかり起きてるよね?!」
淡白な受け答えに突っ込みを入れつつ、リリス側の腕を起こすと「あっ」と残念そうに銀髪の少女が口を膨らます。
「ほら、マーリも朝だぞ。」
「んあ、カケルさまおはようございます...」
目を擦るマーリと「むー」っと眉間を寄せているリリスを背に青年はベッドから降りて背伸びをする。
「今日は公爵家にお遣いなんだから、二人共早めに準備するんだぞ。」
「私達がカケルさまを起こしにきたのにー!」
「そうだそうだー。」
少女達が異議を申し立てるなか、この異世界に転生されてから3日目の朝が始まった。
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