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「ここを抜けたらもうすこしです。」
情景が一変してから数分。
太陽が山の向こうに沈みだし、気付いたときには想像以上に辺りが暗くなっていた。
魔光石と呼ばれていた街灯は一切なく、原始的に火が灯されたランタンが点々と並ぶだけのようだ。
周りの建物が闇に染まっていく中、先導していたフィリアの背中が止まる。
「散々歩かせてしまってごめんなさい。」
「いや、お世話になるんだし気にしなくていいよ。むしろ本当に助かるよ。」
フィリアが立ち止まり金属製の格子門を押し開ける。「門?」と思い、徐々に暗闇になれた目で見上げてみれば、3階建てほどの屋敷がそこに聳え立っていた。
暗くてあまり良くは見えないが、豪勢な雰囲気を醸し出している。フィリアが開けた門を後ろで閉め、10mほどの石畳を歩きながら玄関へと向かう。
「…フィリアってもしかしてお嬢様だったり?」
「…そんなわけ、ないじゃないですか。すぐ灯りをつけるので中に入って少し待っててくれますか?」
「わかった」と返答し言われたとおりに建物の中に足を踏み入れる。
そうしてフィリアが扉を閉めた音が後ろで聞こえた次の瞬間だった。
「ガハッ...!」
鈍器で殴られたような強い衝撃を背後から受け、視界が急速に旋回する。背中に激痛が走るも吹き飛ばされた力に抗えず、体を打ち付けられる痛みが直後に全身を襲った。
一体...なにが...
床に強く打った頭を押さえ、上体を起こしながら離れかけた意識を手繰り寄せる。
事態を判断できない中で、脳だけがここは危険だと警報を鳴らし続けている。そしてすぐに、自身の置かれた状況に気づくことになった。
灯りが連動するように、次々と点き始めたことにより視界が徐々に鮮明になる。
唐突な点灯により視界が一瞬眩んだ先に映ったのは、片手を前に突き出したフィリアの姿だった。
突き出された手の周りからはパキパキと音を立てながら氷塊が増長し、それが背中に広がる痛みの原因なのだと理解するには十分だった。
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