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「あっ、…ありがとう、ございます」
突然の声掛けに一瞬取り乱すもカケルは少女からハンカチを受け取る。年齢は自分より少し若い、高校生か大学1,2年生ぐらいの顔立ちをしている。スカート姿にポンチョをかぶり、首には特徴的な首輪をつけていた。
なんにしても、この異世界でも幸い言葉は通じるようだ。
「それで君は…」
手のひらに乗るサイズのハンカチでは濡れた上半身を乾かすのが難しいだろうと判断したカケルは、少女に転生後初の会話を試みることにした。
「困っていたようだったのでつい…」
少女は指をもじもじとしながらこの状況に至った経緯を説明する。その可愛らしい仕草や可憐さを前に、
「これが噂にきく『異世界女子は皆かわいい説』というやつなのだろうか...!」
などと一瞬考えるも急いで振り払い、カケルは素直に礼を言った。
「実はこの世界…いやこの街に来たのが初めてで困っていたんだ。」
「旅のお方、でしょうか?」
「そ、そうそう!もう右も左も、上も下も分からないような状態で!」
話を無理矢理合わせたカケルがアハハと愛想笑いを浮かべながら言葉を並べる。
「…あの、ご迷惑でなければ...私がこの街を案内しましょうか?」
「え、いいんですか!」
見渡す限り看板の文字は読めないうえ、下手にこちらから誰かに話しかけて不審者扱いされたくないカケルにとって、彼女の申し出はとても嬉しいものだった。
「はい、私フィリアって言います。」
カケルの問いに対して黒髪の少女はぎこちなく微笑む。
カケルも自己紹介を簡単に済ませ、「まずは大通りを案内しますね」と先導するフィリアの後を追うことにした。
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