彼の指先から奏でる音楽

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 個室、防音、ひとり、マスク。   BGMはサロンのオリジナルの水が滴り落ちる音をイメージしたピアノの演奏曲。  いつも通り。  油断なんてしていない、エステティシャンとしての仕事をしていただけ。  つき飛ばされて床に背中から落ちた衝撃で、一瞬、目の前が真っ暗になった。 「……っ」  起き上がろうとしても肩を押さえつけられて、また、後頭部を床にぶつけた。  私の上にのしかかっているのは、上半身裸で下はハーフパンツを履いている男。  お客。  マスクのせいで、声がくぐもる。それが刺激したらしく、男も興奮し息が荒くなる。 顔が近づいてくるのをよけようとして、首を動かそうとすると、 「いっ……」  動かすと、髪が引っ張られて痛い。肩と一緒に髪がまとめて押さえつけられていた。  痛さにひるんだ瞬間に膝の間に足を入れられて、身動きがとれない。 (いやっ!)  男が片方の肩から手を外し、胸を揉む。はっとして、 (今だ!)  空いた肩の腕を伸ばして、施術道具がのっているワゴンを引き寄せて、体にぶつける。
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