彼の指先から奏でる音楽

6/261
221人が本棚に入れています
本棚に追加
/324ページ
いつもの居酒屋で待ち合わせ。店に入って、きょろきょろする友人にカウンターから手を振る。  友人の伊藤まちかが私を見て、驚いて駆け寄ってきた。 「こりゃまた、思い切ったものね。頭小さくなったなぁ」  と私(斎藤さな)の頭を撫でる。 「うん」   施術中は縛るけど、背中まであったストレートの髪をバッサリ切った。前髪は眉の上、襟足スッキリのショート。頭は軽いけど、やりすぎたかな、寒いの。     客の男に襲われてから、ちょうど二週間経った。その間、店舗を移動したりしたこともあって、バタバタして少し落ち着いたところ。  「心機一転するの、これくらいしか思いつかなくて」  まちかが私の襟足に手をやると、ぞくっとした。 「ひぁっ」 「あんたさ、うなじ弱いクセにさらしてどうするの」 「あはは、ねぇ。まぁ、髪は伸びるから」 「考えなし、猪突猛進っていうよね」 「ウルサイ、これでも傷ついてんのよ? なぐさめてよ」  まちかは眉をひそめて、ふぅとため息をついた。 「まぁね。髪切ったぐらいじゃ、吹っ切れないよね。正直、私も怖くなったもの」 「うん、女性専用サロンに移動させてもらえてちょっと、助かった」  あの後、一日休みがもらえて、次に出社したらチーフから女性専用サロンへの移動を打診された。
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!