彼の指先から奏でる音楽

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 まちかはグイッとビールを一口飲んだ。私はちびちびグレープフルーツサワー。 「そういうもん?」 「だって、あんたが辞めて、転職先で前のサロンを辞めた理由を話されたら、あの会社は下品な客が来る店だなとか従業員大事にしていないなって思われるじゃない」 「移動は口止め的な感じか」 「善意ばかり見ないこと。会社で働くってのは深いよ。もう少し、考えなさい」 「うん」  彼女は出版社の総務部だから会社で働くということがよくわかっているんだな。  デスクワークと肉体労働者の違いかな? 心でつぶやいたつもりが、口から出ていた。 「ぶはっ、何言ってんの! あんたが能天気なだけよ!」  ビールを吐きだした、まちかが慌てて、お手拭きで口を拭く。そして、私の頭をぐしゃぐしゃ、かき回す。  「やだ、やめてよー」  まちかの手を払い、髪を撫でる。 「こりゃ、この頭いいわ。引っかからないから、かき回しがいがある」 「もう!」  そのあとはまちかの会社の上司が使えないとか後輩がゆとり過ぎてついていけないとか、まぁ、会社への不満ね。私の知らない社会のこと、会社って色々あって深いな。  〆のお茶漬けを頼んで、まちかがお手洗いに行った。
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