【言い間違い】

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俺が朝の通勤バスに揺られていると… 後ろの席の女子学生らしき声が耳に飛び込んで来た。 「ねえA子。 それって…リストカット?」 俺は、 『おいおい…。何て軽いノリで凄い事聞いてるんだよ!マズイだろ』 と、思った次の瞬間… 「違うよB子。これ、カスタネットだよ」 と、もう一人の声が聞こえた。 『…え…』 俺が、気付かれないようチラッと後ろを見たら… 本当に… 二人組の女子学生の一人が、カスタネットを手に持って、もう一人に見せていた。 恐らく音楽系の部活か何かに使うのだろう。 でも… いくら間違うにしたって 『カスタネット』を… 『リストカット』って… 確かに言葉のリズムは、 似てると言えば、似てない事もないが…。 『何て…器用な、言い間違い方だろ』 俺は、一人でフッと笑ってしまった。 そういや… 言い間違いと言えば… 俺の弟は小学生の時分、 なぜか『ミケン(眉間)』の事を『コカン(股間?)』と言っていた。 で、俺も弟も小学生だった、ある日の事。 学校で、ちょっとイヤな事が有った俺は結構、ケワシイ表情で帰宅したのだが… 「ただいま…」 と、弟が 「お帰りなさぁーい!あれ?アニキどうした?『コカン』にシワ寄せて」 『おいおい…。 それを言うなら「ミケンにシワ寄せて」だろうが…』 と、俺はバスに揺られながら再びフッと笑った。 そうこうしているうちに…バスが目的の停留所に停まり、俺はバスを降りた。 俺が働いている会社は、 このバス停から歩いて五分の距離。 俺は、足早に会社へと向かった。 「おはようーっす!」 と、俺が職場の事務所に入ると、 「あ、おはよう!久しぶりね!」 一人のスラリとした女性が声をかけてきた。 「あっ!チーフ! おはようっす!もう出勤して良いんすか?」 俺は、驚いてしまった。 彼女…U子チーフは、俺の直属の上司だ。 年齢は俺と同い年なのだが、大卒入社の俺に対して高卒入社のU子チーフは俺の大先輩。 仕事もテキパキこなし、 俺は彼女を尊敬している。 実は… チーフのご主人は、 何か脳に障害が有るみたいで、時々ふらりと出掛けると家に帰って来れなくなる事が有るらしい。 で、その度に警察に保護されてるみたいなのだが… 先月、そのご主人がまたふらりと出掛けたまま行方不明となってしまい、 その為にチーフは一ヶ月ほど会社を休んでいたのだった。
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