強制的になくされた大切だと思われるモノ

　ガタンガタン。
　不安定な座席の振動で、まどろみの中から僕は這い出した。
　意識は重く、身体は鉛。
　頭の中はモヤだらけで、まともな思考が出来そうになかった。
　無意識に、半分だけ開いた眼を前へ向ける。
　雲一つない夕方の日光に照らされる中で、一人の女が向かいの席に座っていた。
　長く光沢のある髪は綺麗なほどの黒で、それと対比するかのように病的なほど肌は白かった。
　そのコントラストを際立たせるように、不必要なほどブカブカで黒い服が、彼女を四肢を包み込んでいた。
　それは、どこかで見たことのある魔女のような出で立ちを感じさせた。
　だけど、元からあった魔女のイメージと彼女がかけ離れた瑞々しさと美しさを持っていて、僕は彼女がとても幼く感じた。