駐車場の怪異

　駅の近くに穴場の駐車場がある。
　立地はよそよりいいくらいだし、料金もよそより低価格。なのにかなり空いている。
　この条件でガラガラとなれば、廃れてる理由はただ一つ。
　出るんだよ、ここ。
　噂じゃ、入庫の際に死亡事故が起きて、以来、バックミラーに人の姿が映り込むとか、精算機の前に人影が立っているとか、そういうことが相次いでいるらしい。
　実は俺も、それっぽい体験を一度だけしたことがある。
　といっても俺の場合は、何かを見たとかじゃない。バックをしてたら、明らかに車止めまで行ってない位置で、タイヤがつかえる感覚があった。
　気づかないゴミでも置かれていたかと、すぐに下りて確かめたけれど何もなし。
　俺の霊体験らしきものは、この、ほぼほぼ気のせいで終わらせられるものだけだから、当然、恐怖感なんてゼロ。むしろ、噂のおかげで便利な駐車場を楽々利用できて、噂サマありがとうございますという感じだ。
　今日も、ガラガラの駐車場は置場を選び放題。
　停め安い所を選んでバック…ん？
　タイヤが何かにつかえる感覚がした。でもさっき、駐車場には何もなかったよな？
　また、前と同じアレか。
　見えない人間はこういう形で驚かそうって訳ね。でも残念ながら、俺はびびってあげませ～ん。
　遠慮なくアクセルを踏むと、しつこい違和感がタイヤ越しに伝わった。それに構わず、限界まで車を下がらせる。
　枠内にきっちり駐車し、俺は車の外に出た。その瞬間、異常な光景に気がついた。
　車の下から滲み出たように、赤黒い液体が駐車場の濡らしていた。それが何なのか、確かめるために車の後方へ向かうと、後輪と車止めの間に何かが挟まっているのが見えた。
　ありえない。だってさっきは何もなかった。
　幻覚だ。…もし、万が一何かが本当にそこに存在しているとしても、たまたま運悪く通りがかった猫か何かだ。きっとそうだ…。
　でも、挟まっている何かは、左右両方のタイヤをはみ出す大きさをしているのだ。そして、俺が覗き込んだ方には、靴を履いた足が向けられている。
　そうなれば当然、反対側は……。