Chapter 2

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 ガタン  車両が揺れる。  海沿いのローカル線は、2両編成でガタンゴトンとぎこちなく走る。節電のために暗くなっている車内は、どこか薄気味悪い。 『次はMヶ浜。Mヶ浜』 冷めたような口調で、車掌が次の駅を告げる。僕は、ワイシャツの胸ポケットからメモを出す。  大丈夫。目的の駅までまだまだある。僕は確認して紙をポケットに戻した。  車窓からは、10年前と変わらない海。車内にクーラーは無く、青い羽根の扇風機が、今にも壊れそうな音を立てて首を回している。 ***  僕は10年前、ある町でひと夏を過ごしたことがある。  両親がよく仕事の関係で転勤したから、転校と転入を繰り返した。そのせいで、人と付き合うのが嫌になった。と言うより、怖くなった。関係を築いてしまうと、その関係が強くなればなるほど、別れの時の辛さが増すからだ。  最初のうちは、次のところでまた1から築いていこうと考えたものだが、それが何回も続くと、流石に心も折れる。  何度教壇の前で自己紹介したか。何度隣の席の子から話しかけられたか。何度愛想笑いをしたか。  何度教壇に立って先生に別れの挨拶をさせられたか。  今となっては何度かなんて思い出せない。そんなことを繰り返すうち、僕は関係を築くことを止めて、人と関わらない様にしたのだ。だから、あの時の僕は、空っぽだった様に思う。休み時間になっても、教室の隅で窓の外を見ていたし、話しかけられても、最低限の返事だけをした。
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