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社会というものは、どうしてこんなにつまらないものなのだろうか。
世間というものは何故冷たい氷のようなのだろうか。
世の中に僕を必要とする人はいない。
僕みたいな人は存在していても、していなくても変わらない。どうしてこうなるんだ──。
僕は強く握りしめた拳を、思い切りベッドに叩きつけた。振動がマットレスに伝わり、ドッと全身に返ってくる。
開け放していた窓からは月明かりが差し込み、真夏の蝉の声が眠れない僕の心を逆撫でするかのように鳴きわめいて、余計に苛立つ。
ベッドから見える天井も、相変わらず簡素で、無愛想。まるで僕をほったらかしてすましているかのように無関心に、ただそこに居座っている。
その天井を見つめていると、不意に思い出してしまう、上司の無理難題。先輩達からの押し付け。同僚からの哀れみと同情。
しかし、こんなことにはもう慣れている。だから、忘れよう。そうしよう。
だんだん大きくなっていく真夏の蝉の声は、そんな僕を「また逃げるのか?」と嘲笑しているかのように、絶え間なく鳴り響いていた。
* * *
その夜、僕は変な夢を見た。楽しそうに窓辺で笑う長い黒髪の1人の少女。その窓から見えるコバルトブルーの海。その少女の顔がはっきりとはしなかったが、何故かとても懐かしいような、温かくて優しい光景が、断片的にコマ送りされていた。
どのくらいの時間が経ったのかは分からないが、とても長かったように感じたのは、どこかで知っていたような、体験したことがあるような風景だったからだろうか。
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