Chapter 1

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 僕は何かぬるいものが、頬を伝うのを感じて目を覚ました。すると、何故か涙を流していた。 「あれ……」  僕は涙を拭いながら寝起きの頭で思う。なんで涙なんか流したのだろう、と。  懐かしかったから?楽しかったから?でも、僕にそんな思い出なんかあっただろうか。  ならば、あの夢は僕のが望んだ理想だったのか?しかし、妙に現実感があったので、幻想ではないだろう。 「寝起きはやはりぼやっとしているな……」 そう独り言をほざきながら、僕はベッドから起きた。  しかし、こんな気持ちになったのは何年ぶりだろうか。鮮やかな色彩が、とても眩しくて、それでいて心地良かった。  いつもよりマシな気持ちで目覚めた僕は、不思議な夢のことを考えながら洗面所で顔を洗い、昨日帰ってから着替えていなかったスーツを脱いだ。アイロンはかけていたものの、布がもうくたくたで、辛うじて型崩れしていない程度の使い込んだスーツ。ハンガーに掛けても襟が揃わない  不意に鏡に映った自分の顔を見ると、少し痩せて顔色が悪く、目の下に薄っすらクマまでできている。さっき泣いたのは、きっと疲れていたせいだ。僕は蛇口をひねって、さっと顔を洗い、パシッと顔をひと叩きした。 「よし」 気合いを入れ直して、リビングに向かった。  まず最初にカーテンを開け、窓を開ける。日はすでに昇って外は明るい。辺りからちらほらとスズメの声も聞こえてくる。  僕は大きく深呼吸をした。  リビングに戻り、机に置いてあるパンを袋から取り出し、オーブントースターに放り込む。そのあと、ジリジリと低い音を出して鳴るトースターを横目に、棚からインスタントコーヒーを出して、スプーンでコップに入れた。  独特の酸っぱい匂いが漂ってくるが、僕はこの匂いだけはどうしても慣れない。酸っぱいのが苦手な訳ではないのだが、匂いとしてはあまり好きではないのだ。しかし、コーヒー自体は好きなので我慢するしかない。  電気ポットでさっと湯を沸かしてコップに注ぐと、その酸っぱい匂いは薄まった。  チン  焼き上がったトーストにジャムを塗り、久しぶりの休日をどう過ごそうか考えながら、トーストにかぶりつくと、サクッと音がしてパンがくずれる。昔からブラックコーヒーは好きではないので、牛乳で割ったミルクコーヒーを飲んでパンを流し込んだ。僕はやはりどうしても、あの酸っぱ苦いのが苦手なのだ。  
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