Chapter 1

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 さして上手く作れた訳でもないトーストは、さして美味しくもないコーヒーで流し込み、僕は灯りひとつの部屋に一人。静かに腕を組んで、ただの椅子を安楽椅子のように揺らす。  僕は、しばらく飲み終わったコーヒーのカップをじっと見つめて、ぼうっとしていた。よくよく考えてみれば、これから何をしようかまだ決まっていない。付け加えれば、これから先ずっと、だ。  意地悪な先輩が、ヘマをやらかして大問題になりかけたことを僕のせいにして、上司に報告したので、もともと目をつけられていた僕は、昨日クビになった。  薄々避けられていたのは気付いていたし、あまり喋らなかった僕は、真っ先に切り捨てられるだろうと思っていたので、想定内の事だった。しかし、想定内の事であっても、会社をクビになるショックが無い訳ではない。少なくとも、クビになったこと自体はショックだし、これから家賃をどう払うか。食費をどうするか。そんな不安はある。だけれども、今の気持ちは、安堵の方が大きい。  やっと落ち着ける。やっと休める。面倒くさい付き合いや、残業をしなくて良い。そう考えると、気が楽になる。  少し不本意ではあるが、そんなこんなで、これから先ずっと暇なわけだ。  しかし、せっかくの"休日"だ。暇なのは寂しい。だから、今までのことをさっぱり忘れられる休みにしよう。  とりあえず散歩がてら、買い物に行くことにした僕は、服を着替えて玄関に行った。  薄暗い玄関は少し湿っぽくて、息が詰まりそうになる。靴を履こうとしゃがむと、覗き穴から漏れる光が額に当たって眩しい。
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