Chapter 1

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 彼はそう言うと、軽く会釈して颯爽とバイクで走り去っていった。  ほんのこ10秒にも満たない他愛もない会話だったが、こんなに穏やかな会話をしたのは、とても久しぶりな気がする。僕は、陽炎の中に消えて行く赤バイクの後ろ姿を、しばらく見送った。 ***  彼が去った後、自分のポストを確認すると、友人からの暑中見舞いと、もう1通。謎の白い封筒が入っていた。その封筒には、大きく中央に僕の名前と住所が書いてあるので、僕宛である事は間違いないだろう。  送り主は、川口 由紀江という人。どこかで聞いた事のある名前だが、どこで聞いたのかさっぱり覚えていない。しかし、その封筒の異様な真っ白さは、見慣れないせいか、とても違和感を覚える。送るのに必要な事以外、何も書いていないのだ。日に透かしてみても、中身の物は何か分からない。  とりあえず、気になったので開けてみる事にした僕は、階段の日陰に座り、封を切った。  綺麗に4つ折りにされた便箋が2枚。それだけだ。重なって折られた便箋を開いて見てみると、何やら手書きで書かれた文字が縦に連なっている。 《拝啓 加山祐一様。蝉が鳴く季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。……この度は、残念な報らせをお伝えするべく、この手紙を書かせていただきました……》 『残念な報らせ』と言う言葉が、妙にしっくりこない。僕は胸の中がざわつくのを感じながら、読み続けた。
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