大切な人

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僕はこれからどうしたらいいのか、いろいろと悩み続けた。 治療ができそうな病院を探すのか、治療はあきらめて手話などを勉強するのか…といったことを考えていた。 考えていると憂鬱になるばかりで、何もやる気が起きなかった。 千尋が心配してメールを送ってきてくれた。 千尋は、他の耳鼻科の病院を探してくれたり、一緒に手話を勉強しようと言って、僕を励ましてくれた。 でも僕は、耳が聞こえなくなったショックから、なかなか立ち直ることができなかった。 こんな僕を見かねて、千尋は僕を、ある施設に連れて行ってくれた。 そこは、東京都が運営する福祉施設で、身体障害者と知的障害者の子供が活動する施設だった。 千尋は、この施設で時々ボランティアをやっているようで、今日は施設で文化祭のバザーが開催されるため、千尋はボランティアをやると話してくれた。 そこには、様々な障害を持った子供たちがいて、皆バザーのそれぞれのお店で商品を売っていた。 身体障害者の子供には、体が不自由な子供や、目が見えなかったり、耳が聞こえなかったりする子供がいるようだった。 体が不自由な子供は、車いすで移動する子供が多いようで、食事も自分で食べることは難しいようだった。 目の見えない子供は、部屋の壁に取り付けられている手すりや白杖を使って動き回っているようだった。 耳の聞こえない子供は、手話を使って会話をしていた。 いずれにせよ子供たちは、自分に障害があることが当たり前のような感じで、淡々と文化祭で自分の役割を果たしていた。 そんな子供たちの姿を見て、手話ができない大人の僕は、少し恥ずかしいような感じがした。 (僕は、いったい何を悩んでいるのだろう?) 耳が聞こえなくなったことは事実で、僕はこの事実を受け入れて、前に進む必要があると思った。 僕は、施設に連れてきてくれた千尋に感謝した。
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