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気品のある漆黒の服を着た黒髪の男。異世界、日本での俺の恩師。水城院幸守は羽織っていた上着を脱ぎ隣にいた緑髪の美女に手渡すと俺の前に立ち塞がり武術の構えを取る。
「俺の選んだ道を、止めないのではなかったんですか?」
「止めないよ。でもね。君にはまだ教えておきたい事があるんだ。君は僕に似ている。君は強い。けれども弱く、危うい。昔の自分を思い出すよ…」
突き刺さるような達人の気配。
「構えなさい…アレス!」
孤児院の武術の師範代や緑髪の美女ナユタさんは弱肉強食の世界でも魔導無しの武術だけならば頂点に君臨出来る程の使い手だった。俺は未だに組手で彼女達には勝ち越せていない。
しかし、それは魔導で肉体を強化しないで戦っていればの話である。
今の俺が魔導を使い肉体強化をした状態で戦えば、いかにその道の達人とて無事では済まないだろう。
この世界には無いとされている異世界の力を使用するなんてチートもいいところだ。
「貴方の力はナユタさんや師範には僅かに及ばないと聞く。鍛練こそ足りずとも、今の俺にはもう学ぶ戦闘技術は無い。教えを受け止め煮詰めるのみ! 俺は普通じゃないんです。止めるなら、今のうちですよ…」
「うん。僕に遠慮せず全力でかかってきてね。一切の手加減は無用だから…」
彼がそう望むのなら。
俺は大気中のマナをかき集めて可能な限り肉体を強化した。強化した拳を勢いよく若木に向かい突き出すと、轟音と共に若木が地面に横たわった。
小鳥たちが一斉に空へ羽ばたく。
「お望み通り…本気で、行きますよ。覚悟してください幸守さん……」
表情を変えずに彼はゆっくり頷いた。
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