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それは、圧倒的な力の差だった。
肉体的な力で言えば、先に見せた通り俺は木をもなぎ倒す腕力をしていたが彼にはそこまでの力は無かった。
魔導的な力で言えば、制限された魔術とはいえ炎を操り、雷を走らせる俺に対し彼は魔導士ですらなかった。
負けるはずの無い戦いだ。
勝負にすらならないはずだった。
だが、その結果。俺は負けていた。
負けたのである。
絶対的な力の差を持ちながら、ねじ伏せられ、地面に叩きつけられたのは数段以上戦闘力が勝るはずの俺だった。
「…そんな、馬鹿な…………」
積み上げてきたものを否定されたような感覚に襲われる。
仰向けに倒れて空を見上げながら呟く俺を見下ろす彼。
ほぼ無傷の俺と相反してボロボロになりながらも最後の最後で俺を打ち負かした勝者である彼は言う。
「…強さってさ…必ずしも力量や戦闘技術だけで決まるものじゃないんだ。だから、どうか忘れないでほしい。君がこの月野宮孤児で学んだことを、そして道に迷ったら立ち止まって考えてみてほしい。今の僕にあって、君に無かったものが何なのか…」
「…………………………」
「君は賢く、強い子だ。だから、強さを履き違えないでほしい…。さぁ、特別演習はここまでだ!」
幸守さんが差し出した手を掴まり立ち上がる俺をナユタさんがニコニコ笑いながら見詰めていた。
「人生に疲れたら帰ってくればいい。ここはもう君の帰れる古郷なのだから…」
俺の心には余裕がなかった。彼の動きはその隙を見透かしたような動きだった。
いつか越えたい今は敵わない存在。
あなた達は、俺の道導にさせてもらう。
恩師達と握手を交わして俺は旅立つ。
「…お世話になりました! この5年間は俺の宝です。この世界で良かった。あなた方に会えて良かった。俺の役目を、果たしに行ってきます!」
「行ってこい! アレス=エレクシオン!」
「ふふ、お土産は家族分ですからね~!」
帰ることは無いだろう。
しかし、こんな世界もあるのだと知れて良かった。
今は、そう思えた。
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