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俺の生まれ育った世界。
力あるものが弱者を虐げて蹂躙する弱肉強食の世界、魔導世界アルカ=ディアス。
日本という異界の国からこの世界に帰って来て2日が過ぎていた。
餞別だと言われて別れ際、異世界の恩師から頂いた携帯食料をかじりながら、俺は小川の流れを辿るように見覚えの無い小さな森を突き進んでいた。
この身長の低くゴツゴツとした岩のような植物が多く生えている森はユレシア大陸の南部にあるガヤインの森ではないだろうか?
お察しの通りである。
いわゆる迷子だ。
世界と世界を繋ぐ時空渡りの魔導具というとんでもアイテムと言えど欠点は存在する。自分の知っている転移先の世界を指定することは可能なようだが世界を指定するだけで場所までは指定できないようだ。
ちなみに地球の日本へ飛ばされた時はランダムで飛ばされたようである。魔導を使用した母のことだ。なるべく平和な世界へ送ろうとした結果があの優しい世界だったのだろうと思う。
この世界にはモンスターと呼ばれる動物が魔導的に変異した生き物が存在する。
モンスターには人を襲う獰猛なものや人のペットになったりするもの、言葉による意思疏通ができるものと様々だが中でも一番多いのは…。
「グルルルルゥー!」
俺はいつの間にか獰猛なモンスターに遭遇してしまっていた。
「ワーグルウルフか…」
オオカミの変異種で通常のそれよりも巨大化した犬歯と生臭い異臭が特徴だ。群れをなして獲物を襲うオオカミと違いワーグルウルフは群れをなさない一匹狼の個体が多いと話に聞いた事がある。
なんでも、嗅覚の優れた彼らには漂う仲間の異臭がキツすぎて近寄れないとかなんとか、少し可愛そうな話だ。
「お前は食えないしな。あえて命を奪う気はないが、引き下がる気は…」
「ガルワゥ! ガァー!」
無さそうだな。
手加減しないとな。
次は、森が消滅してしまう。
「炎刀! 顕現せよ陽炎丸!」
適当な木の枝を拾い、その枝にマナを送り込み発火させる。マナのコントロールにより炎は鮮やかな日本刀の刀身を形取り燃え続ける。
飛びかかって来たワーグルウルフを真っ二つに両断してマナの維持を解く。
切断面から炎が立ち上がり、焼けるワーグルウルフの血肉の異臭を嗅ぎながらため息を吐く俺。
「噂以上に臭いな。…はぁ…そろそろ食えるモンスターに遭遇したいところだな」
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