序章(平和な異世界)

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吐き気のする長い悪夢から目覚めた俺は辺りを見回して俺に唯一残された希望を探す。 時空渡りの魔導具だ。 我がエレクシオン家に代々伝わる魔導具で、異世界へ通じる次元の裂け目を生み出す能力を宿した世界に2つと無い秘宝中の秘宝だ。 しかし、それと同時に今の俺には忌まわしき災いを呼んだ魔導具でもあった。 俺たちの屋敷を襲った賊の1人がこう漏らしていたからだ。 『探し出せ野郎共! 時空渡りの魔導具さえ手に入れれば俺たちは巨万の富を得られるんだ!!』 我が家に代々伝わる秘宝。災いを呼び寄せた魔導具。愛する家族の形見。俺に託された最後の希望。俺の存在理由。 手を伸ばして掌に収まるほどの水晶体を鷲掴みにする。内蔵されているマナは既にその殆どを使い尽くしている様子だ。 しかし、魔導の源であるエネルギー、マナとは本来内蔵されているものではなく世界の大気中に漂っているものだ。 魔導具の内側に溜め込まれていたものが尽きたに過ぎない。ならば単純な話で魔導士の端くれである俺がこの時空渡りの魔導具に大気中のマナを注ぎ込めば再び使用する事は可能なはずだ。そうして再び魔導具を発動させれば俺は自分の世界に戻ることが出来るはずだ。 そして、奴らに必ず復讐する。 ここで俺はある違和感に気付く。 「……マナを、感じない………」 大気中に漂っているマナは通常、目視にすることは出来ない。だが、魔導士としての鍛練を積んだものならば肌で感じ取ることが出来るはずなのだが…。 落ち着け。集中しろ。動揺するな。 乱れた心では感じ取れないものだ。 「…………………ある…」 ここがどのような世界かはわからないがこの世界にもどうやらマナは存在しているようだ。 しかし、このマナの異常な薄さは何だ? ほぼ無いに等しいレベルの量だった。
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