序章(平和な異世界)

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傷付いた体に鞭打ち大気中のマナを時空渡りの魔導具へ注ぎ込む。大気中のマナを移動させて指定位置に置くことは魔導士の基本技術だ。 記憶を頼りに時空渡りの魔導具に溜まったマナ量と魔導具を使用する前のマナ量を比較する。 「そう、だよな。秘宝級の魔導具だ。魔導士なら使用することは出来ても、再びマナを注ぎ込むとなると賢者クラスの魔導士が必要だ…」 どうしろってんだ!? 時間をかけさえすれば不可能ではないが体感的には今の俺の腕では魔導具にマナを溜めるのに100年はかかってしまう。 マナを魔導具に溜めきる前に死ぬ計算だなんて笑えない話だ。 だが、諦めるわけにはいかない。 今の俺は中級魔導士レベル程度だ。 俺にはもともと魔導の才能もあったらしく父の話では努力次第で最上級の賢者クラスの魔導士にもなれる可能性があるとよく誉められていた。 しかし俺の居た里は平和そのもので戦うための魔導を覚える必要がなかったのだ。貴族として生れたお陰で魔導の知識さえあるものの、実際には使用したことのある魔導は数少ない。 「この程度のマナも集められないものには家族の仇を討つチャンスすら与えられないということか…」 どちらにせよ力が必要だった。 復讐に赴き、返り討ちに合うなどあってはならない失態だ。確実に家族の仇を壊滅させられる強さが必要なんだ。 「上等だ。賢者クラスの力を、いや…それ以上の絶対の力を手にいれてやる。この俺を殺し損ねたことを必ず後悔させてやる!」 強がるしか無かった。からげんきだろうが何だろうが構わない。止まらない限り前に進むことは出来るはずなのだから、俺は決して止まらない。
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