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森を進むと古びた建物があった。
中からは異界の言語であろう幼い声がいくつも聞こえてくる。
人里離れた森の中に建てられた建物とは身を潜めるのに都合がいい。しばらくここを拠点にしたいのだが問題がある。
中から聞こえてくる声。間違えなく人がいる。あるいは人ではない知覚生命体かもしれないが、そこは問題ではない。
ここで重要なのは彼らが俺に害をなす存在かどうかだ。
最悪の場合、俺は戦って住居を奪い取り彼らを全滅させなければならない。身勝手な話ではあるがそれが世界の理である。
皆殺しに出来るだろうか?
相手の戦力はどの程度だ?
相手は魔導士だろうか?
体が弱りきっていた今の状態で戦うのは自殺行為に等しい。
これは賭けだった。
戦いになれば俺はまず勝てないだろう。
だが、この世界もまた弱肉強食の世界だとしても俺の父のように弱者に救いの手を差し伸べる者も居るかもしれない。
そんな無いに等しい可能性に賭けるなんて馬鹿な事、現実的な妹に全否定されそうだな。
だが、そんな可能性を否定し続けた彼女こそ誰にでも優しく、貧しい人々に救いの手を差し伸べ続けていた。
絶望の中にも救いはあるはずだ。
「…期待するぞ。俺の悪運に……」
俺は覚悟を決めて建物に近づいた。
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