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俺が足を引きずりながら建物の入り口と思われる場所まで向かうと俺の気配にでも気付いたのだろうか、常人とは思えないオーラを纏った女性が建物の中から現れて俺の方へと近付いてくる。
戦えば負ける。
本能がそう告げていた。
『おやおや~! お客様ですか? おかしな服装ですね~。不思議な気品を感じさせているのにボロボロですし。もしや、世界一周の旅人さんですか~?』
彼女は美女と言って間違えないであろう程に美しい女性だった。
緑髪をした陽気な声色の20代前半と思われる美女が俺に何やら話しかけているようだが異界の言語と思われるためまるで話が通じない。
確信した。
やはりここは異世界なんだな。
笑顔に繕った笑顔を返す。とにかく必死で戦意が無い事を伝えるしかなかった。
「俺は敵じゃない。あなた方に害をなす気はない。少しだけでも構わない。今払えるものは無いが、俺を中に入れて休まさせてもらえないだろうか?」
言葉が通じるとは思っていないが、それでも話しかけるしかなかった。
通じたとしても受け入れてくれる可能性など0に等しいがすがるしかなかった。
緑髪の美女は小首を傾げている。
『えっと、あれですよね? アメリカ語とかそういうやつですよね~? いいえ違いますよ! ナユタさん別に日本語だけ話せればいいでしょ日本人なんだからとか甘えて勉強を怠ったわけじゃないんですよ!』
何やら異世界の言語をペラペラ喋りながらうろたえているが、彼女にも戦闘の意思は無いように思えた。
何よりも、彼女からは不思議と優しい雰囲気を感じた。
『それは英語じゃないよナユタ。それに、どうやらこの地球上に存在する言語でもないようだね…』
背筋に寒気が走る。
同時に緑髪の美女が俺の背後に居た何者かに飛び付いた。
『いらっしゃいませ幸守様ぁ~!』
『またこれだよ!? 落ち着きなさい。客人の前でみっともない。月野宮孤児院に来客だなんて珍しいね。それも、どうやら…』
背後からの声に驚き振り返るまで微塵も気配を感じなかった。振り向いた先には高貴そうな漆黒の衣服に身を包んだ黒髪の男性が立っていた。
『…訳ありの旅人さんみたいだね』
「…この人は、敵に回したくないな」
それがこの異世界で俺を救い、鍛え上げてくれた恩師達との出会いだった。
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