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別れの時が来た。
ここは異世界だ。何が起きるかまるで検討がつかない。賢者クラスの魔導士まで成長出来れば俺にも時空渡りの魔導具にマナを溜めきれるのではないかと思っていたが上級魔導士レベルでもマナを3年程で溜めきることが出来た。
このマナ量の極めて少ない世界でよく溜めきることが出来たと思う。
何らかの未知の力が働いたのだろうか?
今の俺にはわからない。まだまだ学ぶべき事がたくさんあるのが名残惜しい。
仲良くなった孤児院の仲間達に別れを告げて俺は5年前に俺がこの世界に訪れた最初の場所まで向かった。
恩師である院長の美女ナユタさんが用事で不在の時に孤児院を出たのは無理矢理止められるのを恐れたからだ。
この世界の誰にも俺が異世界の人間だとは教えていないが孤児院の院長である彼女ともう1人、彼はたぶん…。
目的地まで駆け抜けてみると、木漏れ日の降り注ぐその森の一角に彼と緑髪の美女の姿があった。
先読みされていたようだ。敵には回してはならないと思った直感は正しかったと今ならはっきりわかる。
「…行くんだね」
もう引き返す事は出来ない。
例え恩師である彼らに止められようが止まるわけにはいかない。
「あぁ。あなた方には感謝している。俺が生きてこれたのも強くなれたのもあなた達のおかげだ。だが、ここは俺の居るべき世界じゃないんだ…」
「それを決めるのは君自身だ。だから、君がその道を行くというなら、僕たちは君を止めるつもりはないよ…」
「なら、何故ここに来たんです?」
俺の質問に緑髪の美女が答える。
「もちろんお見送りですよ~! ナユタさんは一流の院長さんなので愛する我が子達の門出はもれなくお見送りするのです!」
どやぁと高らかに胸を張る美女。
やたらとでかい。
「ナユタは昔から寂しがりやだからね。見送りくらいさせてあげてよ」
「むぅ~、幸守様の方が寂しがりやさんじゃないですかぁ~!」
「…………………………」
「はいはいくっつかない! ナユタ。また話が脱線しちゃうから、話は後で聞くからもう少し待っててね」
「辛辣です! でもそんな幸守様がナユタは大好きですよ~!」
イチャイチャを見せびらかしに来たのだろうか? であれば今すぐに押し通りたいところではあるが…。
刹那、場の空気が変化した。
世界に静寂が訪れる。
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