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「波多さん、波多さん、クリームがたっぷり入ってますよ!」
「良かったな」
適当にあしらわれてしまったが、ほんのりと甘く苺の味と香りがする蒸しパンに甘いミルククリーム。珈琲と良く合うし、美味しくて口元が綻ぶ。
そんな姿を波多がじっと見つめていて。ウザいと思われているのか、眉間にシワがよっている。
「そうだ! 波多さん、あーん」
これを食べたら波多だって笑顔になるに違いない。そう思い、ちぎった蒸しパンを食べさせようと口元へ運ぶ。
絶対に食べないと顔を背けられ、それでも口を開いてと軽く蒸しパンをあてる。
ちっと舌打ちをした後、口を開いて指ごと食いつかれた。
「痛てっ」
慌てて指を引き抜く久世に、してやったりと口角を上げて、美味いと呟く。
「ですよね」
噛まれた指に息を吹きかけつつ、波多の眉間のしわがとれてよかったと思う。
「これはお前のなんだから、後は全部食えよ」
もうさっきみたいな事はしないからなと釘をさされ、ここでしつこくしたら完璧に怒らせてしまうので頷く。
すると波多が手を伸ばし、髪をワシワシと乱暴に撫でる。嬉しいが、完全に犬扱いされている。
それでも良いと思っていたはずなのに、たまに胸がちくっと痛む時がある。
そして無性に波多さんを舐めまわしたいと思ってしまうのだ。
ご主人様にじゃれる犬。
これではますます犬のようだと思いつつ、残り少なくなった蒸しパンを口の中へ放った。
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