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ぞくぞくと芯が痺れる。その感覚から逃れるように、やめろと首を振るう。
「盛るんじゃねぇよ。お前は発情期の犬か!」
と、腕が緩んだ隙に身を離し、その頬を平手打ちする。
「……お前は酷いよ」
自分の欲を満たして満足したら波多から離れ、彼女と結婚し幸せな家庭を築くのだろう。
「波多さん」
涙が滴り落ち、それを見た久世がおろおろとしはじめた。
「もういい、この馬鹿犬がぁッ!!」
涙を拭い、おもいきり怒鳴りつけて乱暴にドアを閉め、周りの目が何事と自分を見ていたが、気にしないで席に座る。
しょんぼりと見つめる久世を無視し、仕事をする。
「あらら、久世君のお耳と尻尾がたれちゃってるよ、波多君……、え、なに、目が真っ赤じゃない」
八潮が何があったのというような目でこちらを見ており、
「何もありません。ちょっと顔を洗ってきます」
とニッコリと微笑んで席を立つ。
顔を洗った後、洗面所の鏡を眺め。おもわず泣いてしまった自分が情けない。
仕事が終わり、ずっと無視されたことが相当こたえたか、いつもよりも控え目に声を掛けられる。
「波多さん……」
反省しましたと顔に書いてあり、わざとため息をついてやれば、ビクッと大きな体が震えた。
「ほら、何時までしょぼくれてんだよ。帰るぞ」
と言えば、ぱぁと表情が明るくなり、尻尾を振らん勢いだ。
「飯、奢らせてやる」
これで許してやろうと、そんな意味も込めての誘いに、久世は二度、三度と頷いて波多の手を握りしめ、行きましょうと引っ張った。
「お前、お散歩に興奮する犬だな」
そんな波多のツッコミに、同僚たちは笑い声をあげる。
久世が波多に粗相をしてしまい、怒られてしまった事には気が付いていて、早く仲直りしてほしいと思っていたのだろう。
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