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だが、彼に告白するまもなく失恋をしてしまった。
次の日、いつものように喫茶店へと向かったのだが、カウンター席には江藤と親しげに話をする男がおり、しかも互いを見る目は明らかに恋をしているというような色を持つ。
あぁ、既に恋人がいるのか。
江藤のもつ雰囲気に惹かれたのは自分だけではなかったのだ。
相手がいたのは残念だが、江藤の事は良いなと思った程度なので傷は浅い。これからは心を癒すために喫茶店へ通おう。
「波多さん、いらっしゃい」
「こんにちは。珈琲お願いします」
「畏まりました」
カウンターから少し離れたテーブル席に腰をおろし、スマートフォンを取り出す。
いつもは江藤と話をしているのだが、今日は珈琲が運ばれてくるまで仕事をしていよう。
メールのチェックを始めた所で、ドアベルが来客を告げる。
「いらっしゃいませ」
江藤の声の後に、
「波多さん、見つけましたよ」
と声を掛けられ。その声は嫌というほど聞き覚えがあり、そこには後輩の久世大輝が笑顔で席へと近寄ってきた。
あぁ、嫌な奴に見つかった。社内にいると久世が鬱陶しいので出来るだけ外に出るようにしていた。で、見つけたのがこの喫茶店だったのに。
話す二人のタイミングを見計らい、
「何かご注文がございましたらお声かけくださいね」
と江藤が声を掛けてよこす。
「はい! あ、ここって何か食べるものはありますか?」
「平日のみ、お昼のパンサービスをやっているのですが、今日はもう終わってしまいました」
目立つところに「お昼のパンのサービス」の張り紙があり、そこには今日の分は終了しましたの文字がある。
「残念だな。じゃぁ、何か甘い飲み物をお願いします」
「お任せで良いでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
相当、お腹が空いているようで。腹を摩りながらしょんぼりと腰を下ろす。
「そんなに腹が減ってるなら他に行け」
確か近くに牛丼のチェーン店があったはずだ。
ここに居て欲しくないのでどうにか追い出そうとするが、
「波多さんが行くなら」
とじっと見つめられる。
「はっ、俺は行かねぇよ。飯は食ったからな」
ここに来る前にコンビニのおにぎりを食べてきたので腹は空いていない。なので一人で行けと外を指さす。
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