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あれはまだ久世が新人だった頃だ。
波多と同じ部署に配属され、指導員として面倒を見ることになった。
彼は人懐っこい性格で、甘えてこられるとそれが可愛くて、つい、甘やかしてしまう。
食事の時は彼の好物があるとそっと皿にのせてやったり、抱きついてきたり肩に顔を埋めてきたりすれば頭を撫でてやった。
二人でいる時間がとても幸せで。ノンケである彼を好きになってはいけないと思いながらも、心が惹かれてはじめていた。
だが、ある日、外回りのついでに女子に手土産を買うことになり、お勧めの洋菓子店がある連れて行かれ。
その店は、大人向けといった雰囲気で、落ち着きがあり男でも入りやすい店だった。
「へぇ、良い店だな」
「そうでしょう! 実は俺の彼女の店なんです」
と、ガラス張りの調理場でケーキを作る女性へ手を振る。
久世に気が付いたか、彼女はが頭を下げる。とても笑顔が暖かく、母性を感じさせる人だ。
「へぇ……、優しそうな、人だな」
どうにかそう言うと、久世は嬉しそうに頷いた。
息苦しい。ここに居たくない。
逃げる口実をと携帯を取り出し、
「悪い、俺、ちょっと外にいるわ」
仕事のメールと言うと、久世は解りましたと簡単に嘘を信じる。
電話をするふりをしながらじくじくと痛む胸を押さえた。
久世はただ彼女を波多に紹介したのは喜んでもらえると思ったからだろうか。
あまり反応をしなかった事に、残念そうな顔をしていたから。
それ所か、結局、あれから忙しいふりをして久世と必要最低限の会話しかしなかった。
一緒にいると辛いだけ。気持ちを保つためには久世を突き放すしかない。
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