年下ワンコとご主人様

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 喫茶店の事を知られてしまってから、久世に誘われるようになった。  その度に断っており、もう一週間近く喫茶店へ行っていない。 「波多さん、喫茶店に行きましょう」  今日も誘われるが、二人で行く気などない。 「嫌だね。一人で行け」  久世のわきをすり抜けて食堂へと向かう。 「約束したじゃないですか」  行きましょうと腕を掴まれ引っ張られるが、すぐに振り払う。 「波多君、飼い主なんだから、ワンコちゃんを散歩に連れて行ってあげなさいよ」  こんなに甘えてくれているのに、と、肩を叩かれて。 「八潮課長」  と、久世と同じくらいの背丈である、上司の八潮雄一郎(やしおゆういちろう)を見上げる。  波多は八潮が上司となる前に、教育係としてお世話になった先輩でもある。昔から面倒見がよくて甘やかしてくれる人で、久世の事もワンコちゃんと呼び、甘やかしている。 「ほら、課長もそうおっしゃっているのだから、散歩に連れて行ってくださいよ」  そういうと、肩に頭をぐりぐりと押し付けてくる。  これは久世のスキンシップであり、それに対しての返事は後頭部をひと叩き。 「俺はこんな大きな犬は嫌ですよ」  と言葉を返し、ニッコリと笑って見せる。 「波多さん、酷い」 「まったくだよねぇ」  叩かれた所をナデナデとする八潮に、まんざらでもない表情を浮かべていた。  八潮の事は尊敬しているし、憧れてもいる。特に波多と同期の者は彼が好きで、頭を撫でられた時には舞い上がってしまう程だ。なので非常に羨ましくて妬ましい訳だ。 「とにかく、散歩には連れて行きませんから! では、昼飯を食べるんで失礼します」  八潮に頭を下げ、食堂へと向かって歩き出す。  ついてきた久世を無視し、日替わりメニューを選び空いている席へと座る。前のスペースには大盛りのカレーとプリンが二個。 「波多さん」  様子を伺うような態度に、周りにはまるで波多が彼を叱ったかのように思われるのではないか。それはそれでムカつく。 「はぁ」  イラつく気持ちを押さえようと息を吐き捨て、久世が好きなエビフライをカレーの上へのせてやる。 「ありがとうございます!」  好物だという事を覚えていたから。ただそれだけなのに、嬉しそうに頬を緩ませた。  そして、それを可愛いと思ってしまった自分に腹が立った。
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