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神様の贈りもの
その子は静かに旅立っていった。
その子が我が家にやってきたのは新緑がまぶしい早春のことであった。
なんという愛らしさ。
少し青みがかったまん丸の大きな目、ビロードのような耳、背中にちょこんと乗っかるようなしっぽ、さらには茶色の背中からお尻にかけて小さな富士山のような白い三角形がご愛嬌である。
まだ体が出来てないのでヨチヨチ歩きで、これがたまらなく可愛い。
これらがビーグルの特徴をよく表していたものかと思う。
名前は前もって家族で話し合い「トゥッティー」と決めていた。イタリア語で「みんな」というような意味で、みんなで可愛がろうという気持ちを込めて。
もう家族全員このちっちゃな女の子にメロメロであった。
この日からトゥッティーちゃんの奪い合いが始まったのだ。
もちろん吾輩も。その吾輩たるや翌日からは仕事が終えるとすっ飛んで帰るようになった。それまでは日も落ちるあたりから居酒屋の提灯が気になり午前様もしばしばであったのが、こうも変わるものかと家族からも驚きの目で見られていた。
1か月が経った。
さして広い家ではないが、頭の良い子で家のすみずみまで分かっていて勝手に遊び場を見つけては転げまわり、疲れてはうとうとと寝て、また起きては遊びまわっていた。
夜はさすがに昼間の疲れが出るのか生あくびを繰り返し、吾輩の膝の上で寝ていた。と思いきや突然セーターの袖に爪を引っ掛けてよじ登り、そのまま首筋で寝てしまったので家族は大爆笑。しかし吾輩は笑う事も出来ずトゥッティーちゃんが落ちないようにと神経をとがらせるのが精いっぱいであった。
3か月が経った。
もう体もしっかりしてきたが、いたずら好きで困らせてくれていた。吾輩のオニューの靴をガジガジかじり無残な姿にしてくれてありがとう、トゥッティー。
6か月が経った。
しぐさも大人びてきたが、やんちゃぶりは相変わらずであった。
夕食にと妻が買ってきた鮭を買い物かごからくわえて走り回ったのだ。
妻は金切り声で『私はビーグルを飼ったのよ。熊を飼った覚えはないのよ!』と。別に食べる様子はないものの、鮭を加えてあっち行きこっちへ行きの鬼ごっこで、これまた大爆笑。
この子は笑いの天才でもあった。
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