外国人は好きですか?

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カツカツカツカツ 業務終了後のオフィスの廊下に、ふたつの足音が響く。 「待ってくだサイ、黒木サン。」 「待てません!!」 いつもの呼びかけにいつもの反応で返すと彼の足音が速くなった。 ぐいっと手首を引っ張られて、手の中に赤いコーラ缶をねじ込まれる。 ヒヤッとした感覚に顔を上げれば、私を見下ろす金髪の彼と目があって 私はうつ向いてしまう。 定時直後にオフィス内で行われるこの応酬。 外国人の彼が海外部署から転属されてから一ヶ月。 毎日の日課になっている。 「コーラ、向こうで飲みまセンカ?」 彼が指差す先を見れば、ガラス張りのカフェスペースが私たちを呼んでいて、私は左右に首を振る。 あんな個室で彼とふたりきりになるなんて、とんでもない!! 「私、炭酸飲めないので!!」 誘いに乗らないのをコーラのせいにして、視線を赤いアルミ缶に移す。 炭酸飲料が苦手だと毎回伝えているのに、どうしてコーラを渡してくるのだろう。 「黒木サンは、ワタシが嫌いデスカ?」 突然投げかけられる恒例外の質問。 慌てて振り向けば、至近距離で私を見つめる透き通る緑色の瞳があって、ドキリと心臓が音を鳴らす。 「私、外国の方が苦手なんです。英語が話せないし。」 「ワタシ、日本語で話しているつもりなんデスガ。」 わかっている。 彼の言葉が日本語で、彼が外国人っていうだけでドキドキしているわけじゃないってことも。 「コーラ、開けてくだサイ。飲まなくていいノデ。」 促されるままにプルタブを引っ張ると、炭酸ガスが大量の泡となって飲み口から溢れ出てくる。 想定外の事態にアワアワしているうちに、私のスーツはビショビショになってしまった。 「濡れてしまいまシタネ。」 ベトベトになった私の身なりを満足そうに眺める彼に、涙目になる。 「コーラ、振ったんですか?どうして?」 ぐっと唇を噛みしめる私に、彼の顔が近づく。 「新しいスーツをプレゼントしたいノデ、これから一緒に出かけまセンカ?」 目を丸くする私に、彼が続ける。 「オフィスの中でも外でもずっとアナタとイタイ。この気持ち、日本語で何て言うのデスカ?」 優しい色を宿す彼の瞳に、キュッと鳴く胸の鼓動。 「……好き、です。」 答えながら、やっぱり外国人は苦手だと、ひそかに思った。 fin.
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