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意識を取り戻した時、目の前には小手を付けた手が差し出されており、その先に面を外した主将の顔があった。
「気がついたわね。頭を打ったんだから、しばらくは隅で休んでなさい」
彼女のまなざしと口調は冷徹なものに戻っていた。だが、その手を掴んだとたん、ぎゅっと握ってきた手のひらから意思が伝わって来る。
『極みの世界へようこそ。絶対、負けないけどね』
俺は立ち上がったところで、手を握り返した。
『俺だって』
ゆっくりと歩いて壁際に戻ると、奈緒美が話しかけて来た。
「惜しかったわね。でも二回目の打ち込みはどうしちゃったのよ。タイミングが全然だめだったわよ」
「うるさい、命がけで誘われたんだ。あそこで行かなきゃ男じゃない」
俺の答えに、奈緒美はふくれっ面になってそっぽを向いた。ご機嫌をひどく損ねたらしく、練習の後もしばらく口をきいてくれなかった。
だが、こうして俺の、いや俺たちの新しい剣の世界が始まったのだ。
終わり
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