第1章

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「ねえ」  俺の横に座っていた奈緒美がささやいてきた。 「あたし詩苑に教えてもらったの。強さの秘密」  思わず目を剥いて彼女を見る。 「詩苑は対戦相手の呼吸の流れが見えるんだって。相手が息を吐ききったところを攻撃するの。その瞬間は力が出せないから」  剣道では声を出しながら竹刀を出す。声とともに息を吐くことで力を引き出し、必殺の一撃にできるのだ。逆に息を吐ききった状態では技を出せない。相手が息を吐ききったところを狙いたいのはやまやまだが、全身に防具をまとった相手の呼吸を見極めることができるのだろうか? 「見えるって?」 「陽炎のように見える、ううん、感じ取れるんだって」 「本当なのか?」 「わかんない。でも詩苑はそう言ってた」  奈緒美は口を尖らせる。どうやら作り話ではなさそうだ。 「なんでそんなことが……」 「知覚の極みって言っていたわ。厳しい修練を積んだ者が精神と肉体を高揚させた状態で、明鏡止水に眺めるとわかるそうよ」  明鏡止水……、邪念が無く心が澄みきった状態の例えだけど、勝負の最中にそんなことができるのか。
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