第1章

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「ほら、倉田さんも防戦一方よ」  奈緒美に促されて、視線を対戦に戻す。主将の連続攻撃に倉田さんは受けるだけで精一杯だ。 「ドォォォォォオ」  踏み込んだ主将の抜き胴がきれいに決まる。その瞬間、主将の面の周囲でゆらりと空気が揺らいだように見えた。主将はそのまま倉田さんの横を駆け抜ける。 「あれ?」 「どうしたの?」  竹刀を下した主将を凝視する。だが、一瞬見えた揺らぎは消え去っていた。開始線に戻った主将は次の相手を待つ。 「いや、なんでもない」 「ふうん」  その後も詩苑主将の勝利が続いた。俺は対戦をずっと凝視していたがあの揺らぎは現れなかった。だが、いくつもの対戦を見て気がついたことがある。主将は相手の攻撃に対し、受け流す時と逆襲する時のめりはりがはっきりしていて、しかも判断が的確だった。逆襲に転じた時はすくに一本を取っている。相手の息がいつ切れるかがわかるからこそ、こんなことができるのでないか。
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