第1章

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 次々と部員たちが破れていき、俺の順番が近づいてきた。防具を着けて準備をする。 「次」  主将の声に、俺は立ち上がった。試合場に進む俺に奈緒美が声をかけて来た。 「がんばって。あんたならきっと何とかできるから」  『何とか』とは微妙だが、俺も毎日朝練を積んできたんだ。稽古の量なら主将にだって負けていない。  礼をして開始線に立つ。連戦なのに主将は疲れた様子を見せない。面の横金の間から冷徹なまなざしが俺に向けられている。 「始め」  顧問の声に竹刀を中段に構える。詩苑主将も中段の構えだ。真っ直ぐ背筋を伸ばした姿が杉板の上を滑るように動く。構えに力みは無く、剣先までが彼女の身体の一部のように感じられた。一瞬の隙があれば裂帛の攻撃を繰り出してくるであろう構えは美しくさえあった。  だが、今は構えに見とれている場合では無い。闘志を燃え上がらせ主将を見る。どこか一か所を見ていては反応が遅れる。意識を全身に広げ、眺めるように。その上で、自分の間合いを取るため、じりじりとすり足で前に出る。狙う間合いへぎりぎりの距離まで進んだ瞬間、主将の姿がすっと後ろへ下がった。作為を感じさせない自然な動きだ。つられるように俺もさらに一歩踏み出す。   その時、異変が起こった。
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