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標高500m程の小高い山頂に、一宇の寺院があった。
麓から寺院に続く道はアスファルトで舗装され自動車でのアクセスができるように整備されてはいたが、山門からは一気に時代が戻る。
昭和、大正、明治……。
いや。
もっと、昔を遡る。
江戸、安土桃山を越え、室町、鎌倉、平安、奈良にまで至る。
長い
言葉にしてしまえば、あっけないが、四季の彩が夢幻とも感じる程に繰り返されて今に至る。栄枯盛衰の時に思いを馳せる程に、長い時に忘れられた空間が、そこにある。
苔むした杉林に、石畳。
そこを登り続けると、少し霞がかり神秘的な気配が感じられる。途切れることのない石段に歩き慣れない者だと額に汗が滲み始めた時、陽の降り注ぐ杉林の先に寺院が見える。
千鳴寺。
本堂そのものは一五世紀に建立されてはいるが、開基は奈良時代と伝えられている寺院。厨子と須弥壇は、芸術性と格調を備えたものとして国の重要文化財に指定されていた。
境内には100種・1600本以上もの石楠花が植えられており、四月から五月の開花時期には咲き揃い参拝者や観光客の目を楽しませる古刹としても知られていた。
元住職の法信は、齢80歳。
五年前に病に倒れたのを境に隠居し、弟子に住職を譲る。今では木々の手入れをしつつ、時折訪れる参拝客や観光客を相手に境内を案内する日々であった。
その日、法信はけたたましく鳴る黒電話の受話器を取った。
法信が寺院名を名乗り、相手が名乗った。
知らぬ名であった。
檀家集であれば、声を聞くだけで姓名と顔が思い浮かぶが、電話の主に法信は心当たりが無かった。
だが、相手がもう一つの名を名乗ると、法信は驚きのあまり言葉が出なくなった。
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