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田畑が近くに、山が遠くに見える風景があった。
それを幼い孫娘は、祖母の住む古民家の縁側から見ていた。絣の着物に三尺帯という姿は、大正や昭和初期の頃の子供を彷彿させたが、生まれは平成以降だ。孫娘の浴衣などの着物好きは普段から和服でいる祖母からの影響だったが、この風景に孫娘の姿は似付かわしかった。誰もが見た訳ではないだろうが、日本人が、いつか見た小景がそこにはある。
「ねえ、お婆ちゃん。また、お話して」
孫娘は、縁側に居る祖母にせがんだ。
すると祖母は、優しく笑った。
「いいよ。じゃあ、どんなお話をしようか」
孫娘は、考えながら気持ちがはしゃいだ。
「今日は何がいいかな。桃太郎に、浦島太郎に、かぐや姫。もう、ほとんど聞いちゃった」
しばらくして孫娘は、ひらめいた。
「あたし、お婆ちゃんの知ってるお話がいい」
「お婆ちゃんのかい」
祖母が訊くと、孫娘は何度も頷いた。
「そうだね……」
祖母は呟き、どこか遠くに思いを馳せる。やや間があって、何かを決めた。
「それなら、お侍さんのお話をしてあげようか」
「お侍さん?」
孫娘は訊き返した。
「そう。獅子のように強い、お侍さんのお話だよ」
祖母は、昔話を孫娘へと語り始めた。
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