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いや、夜が訪れたかのように表情が暗く強張る。
「……これは、君の患者かね」
「……はい。私が、この女性を介抱すると共に手術も担当しました。事件性がある傷なので、警察に提出することを考え、手術後に撮ったものです」
公恵の手にある写真には、背を無残に切られた女性の背があった。手元にあるカルテの写しに、公恵は写真を置いた。
何針にも及ぶ縫合痕が痛々しい。
「あの教授」
公恵は訊いた。良い機会であった。検死記録にある写真を眺め、自信の手で志水洋美と同様の傷を探していたのだが、時間ばかりが過ぎていたのだ。
本当はそうではなかったのだが、自信の中に湧いた不安を否定して欲しくて公恵は尋ねた。
監察医に。
「教授は、この傷をどう見られます」
「……どう。とは?」
勲は尋ねた。
「凶器は何か、ということです」
公恵の脳裏に青年の持つ刃が光った。
自身の中にある一番の可能性を否定するために、公恵は母校の法医学教室を尋ねたのだ。
過去に起こった刃物による殺人事件の検死記録と照らし合わせ、傷の鋭利さ長さ深さ。
そして、傷の様子。
公恵が過去の検死ファイルを見る限り、志水洋美が負った傷に似たものはあっても、似て非なるものであり、該当する検死ファイルを見つけられないでいた。
「傷の原因となる凶器を特定するのは、医師の仕事では無いと思うが……」
勲は公恵の医師としての仕事の範囲を越えている調査に、いささかな疑問を感じた。
公恵は言葉に詰まる。
「それは……。患者の治療方針の一貫です」
答える公恵の様子に勲は訝しがるものの、あえて追求は行わなかった。
「見せてくれんか」
手を差し出す勲に、公恵は写真を渡す。勲は写真を診て、目を細めた。
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