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「傷の長さと深さはどれくらいだ」
監察医として業務的になった勲の問に、公恵はカルテから抜粋したメモを取り出し答える。
「はい。長さは約37cm。深いところで約3cm。傷は右肩が深く左脇腹に行くに従って浅くなっています。当初は脊椎が損傷しているのではと思いましたが、幸運にも絶妙な位置で止まっていました」
公恵はメモ見て、勲の様子を見る。
「すると、右肩から切られた。ということだろう。女性が背を向けているところを、後ろからこう……」
勲は右手を袈裟がけに振った。
それは公恵の意見と一致した。
「……それで、どんな凶器が使われたと思います」
公恵は胸につかえているものを感じながら訊いた。検死のプロである医師の勘を聞きたかったのだ。自分の中で生じている推測と、恩師の答えが合わないことを願って。
勲は考えてから口にした。
「率直な意見を言うなら。日本刀だな」
その言葉に、公恵は背が震えた。青年の手にする凶器が過ぎった。
「ナイフやカッターという見方もできるが……」
勲は言葉に詰まった。
公恵は、勲の顔を窺った。
「すまない。今から言う言葉は、あくまでも客観的な意見を述べるにあたっての言葉であって、決して犯人を評価するものではないと思ってくれるか」
「はい。もちろんです」
公恵の答えを聞くと、勲は写真に目を落として口にした。小さな呟きで。
「美しいな」
と。
分かっていても、公恵は脳が萎縮する感情の沸騰を憶えた。
その言葉は被害者や、その家族だけでなく手術を担当した公恵とって激怒させるものであった。
勲の謝りが先になければ、恩師と言えど公恵は明らかに食って掛かっていたが、勲の意見に、公恵は同意した。
「……あの。私も教授の意見に同感です。こちらにある刃物による死体の傷を見ましたが、着衣や下着を含め、こんなにも長く鮮やかな傷口はありません」
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