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友人と別れる際、時計を見た。
すでに、午後八時を過ぎていた。
少し長居をし過ぎただろうかと考えつつ、夜道を歩いていた。すると、ビルとビルの間にある路地から不意に現れた女性が、公恵に向かって倒れ込んで来た。
「え?」
状況を理解できぬまま、訳が分からぬままに女性を抱き止めることによって、公恵の手に血が付く結果になり呆けてしまったのだ。
公恵は状況を理解すると、女性の意識を。
いや、生死を確かめた。
そっと、頸部に触れて脈の有無を確かめる。
脈は…………、ある。
「き……、聞こえますか! 名前は言えますか!」
公恵は、大声で呼びかけ、携帯電話で急ぎ119番通報を入れていた。回線の接続音を聞く中、女性の表情を観察していると、ゆっくりと目を開けた。
(意識がある)
そう思うと同時に、電話は繋がった。
緊急通報のため携帯電話のGPS情報が消防機関に伝わっているだろうが、念のために自分が居る場所と患者の状態を伝えると、公恵は女性に聞かせる。
「救急車が来るから、もう大丈夫よ。必ず助かるから、しっかりするのよ!」
すると女性は、声もなく微かに頷いてみせた。
公恵は自分のジャケットを脱ぐと、少しでも止血するためにジャケットを女性の傷に押し当てた。脊椎を損傷していることを考え、背骨を圧迫できないが、出血の多い肩をできるだけ強く押さえた。圧迫による止血法だ。
公恵のショルダーバッグにある、携帯用の救急キットを使うべきかと考えたが、これほどの重傷には焼け石に水であり、暗いことも考えれば下手な処置はできない。
ここは救急車の到着を待つべきだと判断した。
公恵のジャケットは、瞬く間に血で熱く濡れて来るのが分かった。公恵は改めて傷の深さを知りつつ、女性の姿を見た。
何度も転んだのだろう、掌と膝には擦り傷で血が滲み、靴は履いていなかった。そのためパンストは使い古された靴下のように痛んでいた。命からがら逃げ延びたのが取れた。
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