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「牧田……」
昨夜から家宝の事で頭がいっぱいになり、自分を見失いかけていたが牧田からの手紙を読んで自分の事をこんなにも親身になって気にかけてくれるのは他の誰でも無い……牧田だけではないか。
手紙を読んで牧田を疑っていた自分を恥じた。
牧田だけはどんな事があっても信じようと麗子は心に誓った。
その後……新沼 一男伯爵は、約一ヶ月間探偵を雇い続けるも家宝の行方は一向に解らないままであった。
「……あの偽探偵め、、、。
なーにが、“必ず見つけて見せます”だ !!とんだ給料泥棒だったようだ」
後で解った事だが、この時代の探偵と言っても一般庶民と然程(さほど)変わりは無く、探偵の知識は到底寂しいものだった。
早朝の外出時、一男は玄関先で見送る女中達に愚痴を溢しながら、専属ドライバー冬木(ふゆき)が待つ……黒塗りのベンツの後部座席に乗車して行った。
「ふふふ……給料泥棒とはあの探偵さんも可哀想にね」
「あの探偵様、若くて顔も可愛らしくて私好みの紳士な方でしたのに、もうお見掛けする事が出来ないのは残念でなりませんわ……」
「確かにいい男だったわよね」
「ほら、貴女達いい加減になさい!
旦那様がいらっしゃらないからって気を抜いてお喋りばかりしていいという事では無いのよ」
走り去るベンツを見送りながら好き放題お喋りをする女中達に一喝する牧田。
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