8人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
一通り食べ終えた麗子は、呼び鈴を鳴らして女中を呼ぶ。
「御馳走様。下げてちょうだい」
「はい、かしこまりました……御嬢様」
「ねえ、ちょっと……
シェフにこう伝えておいてくださると嬉しいわ!
今晩もとっても美味しいライスカレーをありがとうって……」
「はい、承知致しました」
呼び鈴を鳴らしてから、直ぐにやって来た一人の若い女中に、麗子が託(ことづ)け頼むと食器を片付けて出て行った。
夜食を済ませた麗子は、丸テーブルの上に画材道具を置くと中庭に咲く花々をスケッチし始めた。
女学校で絵を習っている麗子は、絵を描いていると時間が経つのを忘れるくらい没頭する。
しかし、病弱さ故にいつ倒れてもおかしくない為、あまり夢中にならないようにと、かかりつけの医者に忠告を受けていた。
そんな訳あって、絵を描けるのは女学校と……屋敷では夜食を済ませてから、父親が帰宅する迄の三十分だけと医者との間で決めていた。
八時になり、父親の一男が帰宅したと知らせに来た牧田。
「あら、もうそんな時間なのね。
早いわね……分かったわ、牧田。
…………今行くわ」
最初のコメントを投稿しよう!